2015年8月23日日曜日

コンテクストの話

将棋世界、という業界紙(?)を数年前まで図書館で借りて読んでいたけれど、


コーナーの一つに、トッププロ数人にある局面を見せて、この局面でどう考えるか、ということをまとめるものがあった。(今あるのかどうかは知らない)


取り上げられる局面というのは、次の一手問題のような、「この手を指せば有利になる」というものが存在しない局面が多くて、例えば序盤数手進んだ局面、中盤の駒がぶつかり合った局面、終盤の、駒がごちゃごちゃ交わっていて、先後どちらが勝っているのかよくわからない局面、等があった。


で、プロの誰かが言っていたのが「自分が指しているわけではない将棋の局面をぱっと見て、制限時間内に次の手を考えるのは難しい時がある」というようなものだった。



もっというと、「どんな脈絡でこの局面になったのかがわからない」ということだった。


将棋はふつう、最初から最後まで、自分一人で指すものだ。

イベントなどで、二人一組で10手ごとに交代する、という、特別なものもあるけれど、そこでも対局者は全員、同じ盤を見て、指し手や構想を考える。


そういう状況じゃなく、しかも明確によくなる手順が見つからない局面をぱっと見せられた時には、その局面にたどり着くまでの思考のプロセスが一切わからないので、これ、といった方針を持つのが難しい場合がある、とのことらしい。
(逆に、先入観がないからこそ気づける手順というのも、もちろんあると思う)



これって恐らく、講座ビデオで言われている「コンテクスト」の話と同じだと思う。


ある英語を日本語にする時に、どの言葉が良いのかということは、その明細書がどの分野のものであるのか、ということも関係するし、そこにたどり着くまでの明細書内で使われている言葉や背景にある知識等も、無意識のうちに加味して考えていることになると思う。


だから先の将棋の話になると、ぱっと見の局面にたどり着くまでに、どんな方針を持って指してきたのか、という要素も、手を考える時の重要な要素の一つになっているのだろう。



で、この「次の一手が分かりづらい局面をぱっと見で考える」というのは、他でもない特許翻訳のトライアルと似ている。だってトライアルではいきなり、文章が始まっているのだから。


自分は講座受講中に何度もトライアルを受けてきたけれど、最初(実ジョブを得る前)は時間があったので、管理人さんが言うとおり「出題されている明細書を最初から最後まで訳し」てみた。


最近はそこまで時間がない(短い明細書ならまだしも、めちゃくちゃ長い明細書の一部が出されていると、ジョブやビデオ視聴との関係で、全てを訳すのは無理)けれど、それでも出題された明細書は必ず印刷して、最低限最初から最後まで、英語で読むようにしている。


トライアルの課題だけを見ても、図面がないと位置関係が分からないものもあるし、パーツの名前が分からない時もあるし、その中に出てくるある言葉が、出題範囲外で詳しく説明されていることもある。


だから、明細書の流れをある程度トレースしてトライアルに取り掛かる、というのは、将棋で初手からその局面までの手順を追って(実際にそんなことはほぼ不可能なのだけど)、その局面と向き合う、ということと同じなのではないか。




ついでに言うと、特許翻訳はある意味でカンニング(先行技術の調査や類似特許の検索、トライアル出題用の明細書の読み込み)を、ネットやソフトを使って試験中やジョブ中できるけれど、将棋はそれができないから、プロ棋士はすごいと思う。



だって対局中は前例の棋譜を調べることができないから、頼れるものは自分の頭しかないわけで、それを思うと、これも管理人さんが言っていたけれど「プロ棋士になるわけじゃないし、特許翻訳の勉強なんて棋士になるよりはるかに簡単です」(だったかな?)というのも、すごく頷ける。


何の検索技術も使わないで、トライアルやジョブなんてできないですよ。


(もちろん棋士でも特許翻訳者でも、潜在意識の中でものすごいスピードで取捨選択をしているのは同じだと思いますが。)






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